
書評
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冒頭で、ハドリアヌスに関する史料を列挙している点が良い。「ローマ皇帝群像」やディオの様な史書以外に、碑文やパピルス文書、遺跡や遺物まで網羅しており、これらの史料が、本文中随所に注記されている。伝記著作は作者のエッセイに陥り易いが、出典史料がちりばめられているお陰で作者の恣意性はかなり排除されている。一方で、馴染みの無い地名に現在名を注記し、膨大な史料出典の注釈があるが、それでも徹底できているわけではない点が残念。高額書籍にしてもよいから徹底して欲しかったが新書としては十分とも言える。 内容的には、ハドリアヌスの伝記は61頁まで。以降はハドリアヌス時代の政治・司法制度、財政・外交政策、中央と地方の行政制度、社会・経済・美術・建築・宗教、ラテン・ギリシア文学と続く、新書にしては百科全書のような盛沢山な内容。ただ、目次的には充実しているものの、量が少ない項目も多い。これだけの内容を新書に詰め込むのは無理なのだろう。もっと大部の書籍として、記載量の少ない項目も充実させても良かったのでは。また、膨大な情報の列挙が、途中から項目の羅列と化しているところもあり、文意の取りにくい箇所も目立った。コインや建築に関する箇所は、写真があると良かった。図版は充実しているが写真が無いのも残念。 全体として、「ハドリアヌス帝の回想」を史料で裏づけた膨大な注釈書のような印象。「回想」に寄り添っているかのように、「回想」のイメージを損なうところがない。とはいえ、ピウス帝について、「ほとんど旅行をしないし、あまり芸術にも関心を示さず、革新する能力に秀でていなかった」(p58)、「多様性の中での統一」(p77)など、「回想」の本文に似た文章が登場するのは、著者の一人がユルスナール研究国際協会の会長(p168)だからか。IT企業の社長が訳者という点とアッリアノスの著作に「アレクサンドロス東征記」が挙がって無いのが謎である。 訳者の北野徹氏は、IT企業TISの子会社の社長を務めた、IT畑の人のようである。クセジュ文庫で、多くのギリシア・ローマ関連の著作を翻訳しているようだから、フランス語翻訳の第一人者なのだろうが、不思議である。ギシリア・ローマの専門家で無い点が、はっきり言えば不安であるが、本文を読む限り、素人的な破綻は見られない。いづれにしても、巻末の著者経歴には、IT企業の経歴は不用で、北野氏が、ギリシア・ローマの研究者でもあるのならば、そちらの業績を掲載すべきでは無いだろうか。 アッリアノスについては、「黒海大航海」のようなレアな書籍が何度も言及され、「アラニ族戦争」のような書籍名まで出ているのに、なぜかもっとも主要な著作である「アレクサンドロス東征記」が上がっていないのが不思議。こうしたところに、訳者の経歴についての不安が過ぎるが、いくらなんでも、「アレクサンドロス東征記」がアッリアノスの著作だと知らないことは無いと思うので、ここは何か理由があるのだろう。 総じて、「ハドリアヌス帝とその時代のローマ帝国」という題名の方が相応しい内容となっている。 |
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| 431ページもある分厚い大著です。ローマ帝国各地の貨幣、農地、鉱山、採石場などの状況を丹念に分析した書籍です。読み物としては面白くはありません が、資料としては非常に有用だと思いました。分厚いので斜め読みどころか、拾い読み、全ページ目を通しましたが、実際に読んだ分量は50ページ程ですが、 参考になりました。紀元前後から250年の銀貨の銀含有率の変遷表は良く目にしますが、318-340年の資料ははじめて。コンスタンティヌスと内戦中の リキニウス支配時代の東方の銀貨の銀含有量が極度に低くなり、それが内戦の資金捻出の為、との分析は説得力がありました。しかし、この年代の銀含有量は 3.5%以下というのも驚きです(2世紀までは70%以上、250年で40%程度)。また、英国、スペイン、シリアその他各地の田園地帯の遺跡を分析し、 都市とヴィラと一般農民の分布の分析などは、当時の農地の景観を具体的にイメージすることができて有用でした。同じような分析が、各地のついて延々と繰り 返し続くので、読み物としては飽きてしまうと思うのですが、南川氏が英国について書いている田園風景と似たような景観が帝国全土に広がっていたことが良く わかります。遺物の出土範囲から、地方のローカルな交易圏を分析する点などは、こうした話は、オリエントとインダス文明の交流など、異なった文明の交流な どではよく目にする話ですが、ローマ帝国内のローカル経済という地味な分野でも地道に行われていることに少し感動しました。 Jul/2010 |
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| きっかけは先週「ローマ帝国 (〈1冊でわかる〉シリーズ) 」を読んだこと。本屋で南川高志氏が記載している解説を立ち読みし、少し興味は持っていたのですが、今更入門書的な書籍を買うまでもないと思っていたとこ ろ、蔵書数も少ない近所の町内図書館にあったので借りてきて読みました。啓発される視点が多く、特に「ローマの支配の地方への浸透ぶりの実際」と「英国の インド統治とローマ帝国」などが参考となりました。2003年に出版された時はローマ時代のブリタニアのなどという辺境を扱った「海のかなたのローマ帝 国」の意義が理解できなかったのですが、「ローマ帝国 (〈1冊でわかる〉シリーズ」に啓発されて読んでみたところ、かなり有用でした。ギボンの「ローマ帝国衰亡史」が18世紀後半に登場し、インド赴任時代の チャーチルが愛読したなどの話や、熱心なローマ研究ぶりなど、英国は植民地時代の最初から、ローマ支配を参考にしていたものと思い込んでいたのですが、そ の先入観を覆されました。19世紀末までは、「衰亡史」も没落を主軸に捉えた反面教師のように受け取られていたのですね。それにしても南川氏の文章は上手 いですね。たまたま私にとって相性が良いだけなのかも知れませんが、どうにも引きずり込まれてしまい、飛ばし読み、斜め読みができず、結局2/3を読まさ れることになりました。巻末で、今後はドイツ、フランスなどの地方支配の実態の研究に向かう、との記載がありましたが、今後の研究(の書籍化)が楽しみで す。 |
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一見、位置づけの難しい書籍である。「ローマ帝国」というからには、帝国化した前2世紀から4世紀頃を対象としているのだろうが、研究書や一般書でも膨大
な出版点数があり、既に新書レベルで「ローマの生活」「ポンペイ」など細分化されたテーマで出版されるような状況にあって、巨大な帝国を今更一冊で、しか
も「ローマ帝国」という題名で何を描けるのだろうか?という疑問があった。実はこれについては、読後も未だによくわからない。私は既に専門書にも接してい
るが、あまり専門書でも出てこない地方行政や平均寿命の研究などが出てきて有用だったが、「一冊でわかる」入門書としてはじめてのローマ帝国本が本書とな
る方にとってどのような印象を与えるのか想像しがたいところがある。前提知識無しでも読みやすいのか、ある程度の知識を前提とするものなのか未だに判断で
きない。しかし、著者の視点の斬新さは指摘できる。
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中国古代の書籍出版事情を扱った書籍に、「中国出版文化史―書物世界と知の風景と
いう書籍があります。書籍や書店はいつ成立したか、蔵書家の所有書籍量などを丹念に考察した非常に有用な書籍です。古代ローマについて同様なクオリティと
内容を持つ書籍を探していたところ、本書が出版されました。古代の巻子本、冊子本、書写材料、書籍の普及度合い、書籍商、図書館など、様々な角度から書籍
を取り巻く情報が整理されています。
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ローマ五賢帝―「輝ける世紀」の虚像と実像 (講談社現代新書)出
版のきっかけとなった元首政期のローマ研究書。論文集の集まりだが、時代順に適度な量で記載されていて読み易い。この書籍で扱っている2世紀以降の所謂五
賢帝時代からセウェルス朝時代を扱った書籍は、日本では「ローマ帝国衰亡史」「ローマ人の物語」が目に付くくらいで深く掘り下げて扱っている書籍は少な
く、この点で、この時代について深く知りたい人には有用な書籍となっている。 |
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全442ページ中、334ページが脚注含む本文となっています。100ページ以上ある解説は充実しています。解説では、あまり一般的に知られているとは言えない
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基本的にローマ帝国内の旅行の記述がメインだが、オリエントやエジプトの旅行の曙から書き起こされ、西洋古代世界に関する資料がふんだんに記載されている。ローマ時代の旅行に関しては、宿屋、料理屋、郵便、博物館、観光ガイド、ガイドブック、富者から一般人までのポピュラーな旅のルートが描かれ、資料としても非常に有用な著作となっている。注釈が少ない点が残念だが、本文中に出典がまめに記載されているので不便さはあまり感じない。何より本書の嬉しいところは、関連する記載の頁が頻繁に記載されている点。「そういえばこれに関した記述がどっかにあったっけ」と思うところには、関連頁が()付きで付記されている。饒舌な観光ガイドにうんざりするのは今も当時も変わらないのですね。 最近[[ASIN:4562045256 図説古代仕事大全]]という書籍が出版され、価格が同じ3800円。趣旨と範囲が若干異なり、「仕事大全」の方は旅行関連の仕事ばかりを扱っているわけではないが、記述の深さが新書並み。ジャーナリストが書いた職種コラム集という感じで、もう少しで「世界史こぼれ話」となってしまう感じ。守備範囲が異なるとはいえ、「仕事大全」も本書程度のクオリティだと非常に有用となったと思う。その分本書の非凡さが際立っている。 |
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「古代仕事大全」といいつつ、東洋やインドは対象外。「古代」というとデフォルトは西洋であり、中国やインドは「古代中国」「古代インド」とつけないといけないので、まあ目くじらを立てても仕方が無い。本書は、150以上の「古代ローマ時代」の職種を記載して、古代ローマの市井の世界を手軽に知ることができて便利である。しかし、著者が専門の学者ではなく、著述家的な位置づけの作家であるからか、記述の深さや書き方が新書並み。ジャーナリストが書いた職種コラム集という感じで、もう少しで「世界史こぼれ話」となってしまう感じ。出典の記載も少なく、注釈も無し。3800円というと、学術書の価格帯に入ってくるが、本書は」読み物」という感じ。原書を確認してみると16.95ドル。25ドル以上お買い上げで6.70ドル。日本アマゾンで1600円。なるほど、"読み物”価格。翻訳料や翻訳権料が入るので訳本が高くなるのは仕方がないとはいえ、2200円程度に抑えてくれると嬉しかった。原題は「9 to 5 」。映画でもあった、「9時から5時まで」。このニュアンスを伝える題名にして欲しかったなぁ。 |
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☆☆☆☆ |
| ローマ時代を舞台にした活劇を描くのは、イギリスだけだとの先入観があったので、作者もイギリス人だとばかり思っていた。なので、読み始めて直ぐに、これ
は神話を描いたものなのかも、と思っていました。古代ローマの始祖が、イーリアスに描かれたトロイアの王家の一員であるアエネアスが、小アジアから、イタ
リア半島に落ち延びて後、1000年後の大帝国のはじまりとなったたように、ローマ最後の皇帝である、ロムルス・アウグストゥスが、ブリタニアに落ち延び
て、やはり同じく1000年後の大英帝国の始まりとなる、そんな伝説のはじまりを描いた作品なのかも、と思っていたら、途中で気がついてみると、作者はイ
タリア人。偏見で申し訳ないけれど、イタリア人も、古代ローマを扱った作品で、娯楽作品を書くんだ、と少し意外でした。 また、古代末期、 中世に差し掛かる時代を描いているので、RPGものか、中世的ヒロイックファンタジーものなのか、とこわごわ読み始めたのですが、この点でも意外とまとも な歴史モノという感じ。主人公とヒロインの恋愛関係が少し安易とか、敵味方含めて、他の英傑たちも、少し素直すぎるようにも感じられますが、さくさくと一 気に読めました。 この時代を扱った作品としては、映画「ファイナル・エンペラー(邦題はしょうもないですが、原題は「帰郷」。面白いかど うかはともかく、いい作品です)」、文学小説「アプロネニア・アウィティアの柘植の板」、児童文学「ともしびをかかげて」などがありますが、本作品もこれ らと並んで、5世紀ローマものの一角を占める良作だと思います。 |
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小 林 標 ☆☆☆☆☆ |
| 逸身喜一郎「ラテン語のはなし」は、私にとって、言語入門についての
イメージを一新してくれた本である。言語の解説本というと、従来は、殆どが自動的に学習書となってしまっていたが、逸身本はラテン語に関するエッセイ集と
いった趣で、ラテン語のに親しみが沸き、なんとなく「学習してみようかな」という気にさせられた本である(といいつつ学習してないけど)。本書、小林氏の
「ラテン語の世界」も、「ラテン語」自体を言語として学ぶのではなく、「ラテン語について学ぶ」書籍である。逸身氏や小林氏のような、言語への興味を掻き
立てる書籍は、どんな言語についても、まずあって欲しいものである。 本書は、ラテン語の歴史、俗ラテン語、中世ラテン語の解説に加えて、もっとも非凡なところは、ラテン語が何故現代にいたるまで学術語などとして生き長ら えているか、その「メカニズム」を、文法的観点や、文化的観点から詳述している点にあると言える。そうだったのか!と膝を打つ点た多々あった。ギリシア語 からの単語の移入についての解説も、「それを知りたかったんだよ」と、痒いところに手が届く記述ぶり。英語には、同じ内容で、異なった言い回しがあるが、 その原因が、ラテン語起源(フランス語経由)・ゲルマン語起源であることや、次々とカタカナなどで外来語を吸収する日本語・英語と、中国語・ラテン語の相 違など、色々とトレビアに溢れている。 サンスクリット語についても同様な書籍が出て欲しい強く思いました。 |
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Gerald P. Verbrugghe (著), John M. Wickersham (著) ☆☆☆☆☆ |
| 日本ではあまり知られていないかも知れませんが、ベロッソスとマネト
は、ともに紀元前3世紀の著述家です。、ベロッソスはバビロニア人、マネトはエジプト人ですが、ともにギリシア語で、バビロニア史とエジプト史を書きまし
た。ベロッソスは、セレウコス朝のギリシア人支配者、マネトはプトレマイオス朝のギリシア人支配者の要請によって自国の歴史を書いたとのことです。ところ
が、両者とも原典は失われ、後世の著述家に引用される形で、断片のみ現在に伝わっています。 本書は、著者に関する記述や、何故、エジプトとバビロニアといった古い文明の地で、同時期にギリシア語の著作が現れたのか、という著作の背景や、それが何 故断片しか後世に残らなかったのか、といった分析と、断片として残る記述が全文紹介されていて、有用な書籍となっています。しかし、本書の有用な点はそれ だけではありません。後世の引用著作者と、その引用個所の一覧、及び登場する王の年代をまとめた表が整理されて掲載されています。年代の表は、発掘された エジプトとバビロニアの年代記・王名表・年報と、現代の定説を横に並べて比較できるように整理された年表が掲載されいるため、ベロッソスとマネトの記載内 容の特徴が、デジタルに把握できるようになっています。 ベロッソスやマネトそれぞれに1冊費やされると、一般読者は辟易しそうですが、本書のように前半ベロッソス、後半マネトとし、それぞれ紹介・本文・比較年 表・引用著作一覧という構成をとっているため、新書を読むような感じで読むことができます。恐らくこのテーマの著作は、過去日本で出版されていないと思わ れ、邦訳を出せば、売れるのはないでしょうか。有益な本だと思います。 |
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☆☆☆☆ |
| 大人向け小説と考えると、特に違和感がないが、子供が読むとなる
と、共感しにくい訳文と言えるかもしれない。古代ローマの日常生活を舞台にした娯楽小説は少ないため、私も含めて、大人の読者にとっても、読みたい分野で
ある。とはいえ、同じ古代ローマを舞台とした、サトクリフ作品と比べると、もう少し低学年向けという感じなので、筋立ては若干物足りないところがある。 しかし、町の風景や、主人公の家、子供にとってはかなり物騒だった当時の町の様子などが生き生きと描かれていて、このあたりはサトクリフ以上だといえよ う。(これは、町が殆どそっくり遺跡として残っているオスティアを舞台とする本作と、規模の大きい町遺跡のないイギリスを舞台とするサトクリフ作品の相違 に過ぎないが) オスティアは、一度旅行したことがあるので、映画を見ているように、リアルな感じがした。これからオスティアを訪れる方は、是非一読をお薦めします。 |
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☆☆☆ |
| サトクリフの作品において、ローマ時代およびその前後のブリタニア
を舞台とした作品群が一角を占めている。その核となる作品は、ローマ・ブリテン三部作と呼ばれる「第9軍団のワシ」「銀の枝」「ともしびをかかげて」であ
り、それぞれ、紀元128年頃、296年頃、410年頃を扱っている。各作品の主人公が、次の作品の先祖にあたる、大河物語でもある。 これに対して本書は、同様に「山羊座の腕輪」を代々伝える家系を主人公とし、紀元61年、123年、150年、196年、280年、383年に渡る歴史 を1冊に綴ったものである。これだけの内容を1冊に綴るのであるから、3部作に比べると、舞台もハドリアヌス長城付近に限られ、あまり深みのある話にはな らない感じがした。面白く読み進めはしたが、残念ながら3部作と比較すると、こみあげてくるものがなく、物足りなかった。 もし、サトクリフの3部作を未読な読者であれば、本作とともに、3部作も合わせて読んでみることをお薦めします。 ただし、3部作を読んでいれば、この作品は読まなくてもいいか、というと、そんなことはありません。この作品が、3部作に比べて起伏に乏しく感じるの は、3部作の一族が、ローマのブリタニア支配時代、より深く「ローマ人」として生きているからこそ、ローマの衰退・撤退という事態が胸に迫ってくる、とい うことにあるのだと思う。これに対して、本作の主人公は、長城の守備隊として代々従軍しており、妻も「長城の外」の出身者であることが多く、最初からロー マと、ローマの外の境界に生きている者であるがゆえ、ローマの興亡とは、一歩距離をおいた感覚をもって、淡々と人生を送っている。だから、ローマの衰退に ついて、「ともしびを掲げて」の主人公のように悩むこともなく、ラストは、特に強い惜別もなく、ローマの外の世界に戻ってゆくのである。 こう考えると、本作は、ローマ3部作の一端を担っているとも思える。 |
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☆☆☆ |
| 塩野七生の「ローマ人の物語」で日本でもわりとメジャーになった、ハ
ンニバル、スキピオ、アルキメデス、といった英雄・著名人が登場する時代。「ヘウレーカ」で描かれているのは、第2次ポエニ戦役時代に、シラクサ市がロー
マからカルタゴに寝返ったときのローマ軍による、シラクサ再征服の攻防ですが、本作品は、一般にこのような英雄時代にふさわしいような明るいものではあり
ません。登場する人物の中で特別な人間は、ハンニバルとアルキメデスだけで、主人公ダミッポスは能力は高いが、まぁ、普通の青年の範囲。 アルキメデス発明の兵器がローマ軍を苦しめはするが、主人公は、結局恋人もアルキメデスも救えずに終わる。一件、歴史という大きな流れの中で翻弄される 個人を描いた作品のように思えてしまうかもしれませんが、本作品は決して、「個人の可能性」を否定ているものではありません。彼の行為は、結果的とはい え、戦勝軍隊による無用な敗戦市民の殺害を防ぐ一因にはなっている筈です。少なくとも敵方のローマの司令官には評価されていることは間違いありません。 彼が恋人とアルキメデスを救えなかったことのみに注目し、自分の可能性を否定して、腐ってしまうかどうかは、本人次第でしょう。主人公が、いつかそのこ とに気が付いて、前向きに生きていって欲しいと思います。 ラストの主人公は、どうみても人生に俯いてしまっているため、読後感はかならずしもよくはないかも知れませんが、「希望はある」、それをどうみるかは本 人次第である、とい風に考えたいと思います。 |
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☆☆☆☆ |
| 6世紀のフランク史を知る上で、もっとも重要な同時代資料
であるグレゴリウスの歴史十書。本書は、日本語訳があることは知っていたが、貴購本で高額、大部でもあったので、とても読む気にはならなかった。そうした
ものぐさな人間にとって、時代背景、グレゴリウスについて、歴史十書の要約とポイント、当時の別の史書を端的に紹介してくれる本書は、気軽に読める読み物
となっていて、非常に有用である。特に一つの例を用いて、著者グレゴリウスの無意識の層にメスを入れてゆく部分は、歴史家の仕事の一端を示してくれてい
て、参考になる。 中身の濃さというと、170ページくらいしかなく、写真や図も多いので、新書よりも内容は薄い感じである。著者も、「講演をまとめた程度」と、「小品」 である旨言明している。それにも関わらず、読んで得をした気分になるのは、本書が扱う対象の希少性もあるにせよ、著者の切り口と、語り口の手際よさによる ところが大きいからであろう。他の、馴染みのない時代についての、こうした書物が、もっと出て欲しいとおもう。 11/14/2004
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☆☆☆☆ |
| 古代の著作というと、学級的で難解で、敷居た高いといった
先入観があるが、本書は予想に反して肩の凝らない読みやすい内容である。この読みやすさには、南
川氏の翻訳と本文と註のレイアウト、文字のサイズなども寄与している。註は、よくある巻末にまとめたパターンではなく、見開き本文の左端に適度な量と内容
で記載されている為、本文を読むリズムを崩さずに読むことが出来る。 中国史などは、漢書や三国志という古代著作とは別に、従来から陳瞬臣氏の十八史略などによる肩の凝らない読みものがあったが、古代ローマ史については塩 野七生氏の著作が登場するまでギボンのローマ帝国衰亡史のような重たいものしかなかった。塩野作品は間違いなく日本の読者にローマ史についての関心を掻き 立て、塩野作品を読んでからスエトニウスのローマ皇帝伝やタキトゥスの年代記などに進んだ方も多いのではないだろうか。本書ローマ皇帝群像は、初心者が塩 野作品の当該時代に相当する部分を読む前に、いきなり読んでも入りやすい内容である。歴史学的には不足とされる、あまり詳しすぎないところが返って適度な 内容となっていて、ゴシップが多く、文学性が低いとされているがゆえに、反って大衆受けする軽い内容となっている。よく「中国○○列伝」のような軽い著作 が文庫などで出版されているが、本社は古代における、そうした位置付けの大衆向けの読み物、といった感じなのである。 本書は全3分冊の第1冊目でハドリアヌスからマルクス・アウレリウス時代の正・副併せて4人の皇帝を扱っている。ハドリアヌスというとユルスナール「ハ ドリアヌス帝の回想」が想起されるが、成るほどネタ本はこれだったのかと判るとともに、「回想」がいかにネタ本をうまく料理しているかにも改めて驚かさる のだった。 2/20/2004
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☆☆☆☆☆ |
| この作品に対して☆5というのは意外とお思いになる方もおられるかも
知れない。間口が狭く、一般的とは言えない作品だからである。しかし本作は古代の著作
の翻訳と見まごう程、完成度の高い作品である。本作は2部からなり前半部はアプロネニアの生きた時代、ゲルマン民族のローマ帝国進入が激化する紀元350
年頃かローマ陥落の5世紀初頭迄の歴史概説、後半はアプロニネアが柘植の板に記載した断片的なメモから構成されている。前半において読者はあまり馴染みの
ないこの時代の背景と政治的流れを知り、後半において、そうした激動の時代とは無縁に、ひたすら無関心に身近な自身の生活だけに注意を払ってひっそりと生
きる貴族の女性の意識に出会うという仕組みである。 アプロネニアのメモを「枕草子」に比べる向きもあるようだが、これには一言注意をしておきたい。「枕草子」は作者清少納言の優れた観察眼と観察対象からな る、独立した一個の「作品」として存在している。それは時代背景や作者について知識が無くても作品として充分鑑賞出来る類の作品である。しかし本作は古代 地中海世界の没落という時代背景抜きには成り立ち得ない。アプロネニアの無関心さは没落に向かって久しい世の流れと表裏一体なのである。作中概説部におい てアプロネアとは異なった個性のプロバという一人の女性が登場する。没落する古代世界に反して、当事ひたすら興隆の途上にあったのはキリスト教世界に生き る女性である。プロバが同じようにメモを残していたと仮定してみる。それは決してアプロネニアのメモのようなもににはなら無い筈である。ラスト、ひっそり とゆらめく蝋燭の火の描写でメモは終わっている。この作品は、消え行く古代世界への優れた鎮魂歌なのである。 |
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コ
ンスタンティヌス ユーロの夜明け 大澤武男 ☆☆ |
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08./Apr/2010
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