04/02/2005

映画評





第七の封印
☆☆☆☆☆


    

   中世を扱った映画を探していて、イングマール・ベルイマンの作品「第 七の封印」(1956)を思い出しました。見たのは学生時代なので、もう20年くらい昔の話。なので、記憶が一部あやふやなところがあるので、 ちょっとネットで調べてみたところ、意外に、記憶の内容通りです。

この、「第七の封印」とアンドレイ・タルコフスキー「サ クリファイス」は、二元論という、同じテーマを扱っているように思えます。ここで言っている二元論とは、善悪、神と悪魔ではなく、コスモス・カオ スという意味での二元論です。何がコスモスで何がカオスか、というと、ざっくり言ってしまえば、深刻に人生や世界のことを息苦しいくらい真剣に考える理性 的知識人の世界がコスモス。どこか冷静過ぎて、秩序的。「人生楽しめばいい」と、どこかいいかげんで、不真面目でざっくばらんで感情的だが、陽気で人間味 ある世界がカオス。

第七の封印における、信心深い知識人である主人公の、人生の意味や死への思索、これは、コスモスを追い求める真摯な姿勢であり、しかし、そんな主人公の所 に、死神がやってくる。主人公の周囲に何人かの人物が登場するが、旅芸人の夫婦以外は、全員破滅して終わる。彼らに共通しているのは、「形而上なるものへ のこだわり」だと思う。魔女とされ、処刑される女性。魔女は、人々の意識や恐れが作り出したものに過ぎない。しかし、「魔女」という形而上的存在が、処刑 という災厄をもたらす。主人公は信心深いが、それは心ではなく、論理的な側面がある。だからこそ、死神がやってくるのである。

一方、信仰心という意味では不真面目な旅芸人の夫婦のみが、生き残る。マリアの幻影を見たにしては、深い思索もなく、しかし素朴で、あれこれ深く考えるこ となく、子供と夫婦生活中心とした、地に付いた生活をおくっている。そんな夫婦の元には死神は訪れない。そもそも、そんな夫婦の世界には、「死神」は存在 していない。

「サクリファイス」では、前半部がコスモス、後半部がカオス。核戦争が迫っているというのに、冷静、客観的、不安な感情を押し殺し、理性的過ぎる主人公 達。この世界は破滅する。一方の後半部。時間が遡り、同じ場面が繰り返される。登場人物は同じだが、その振る舞いは前半部と打って変わって、あさましく醜 いといえるくらい感情的・自分中心的だが、この世界は破滅することなく、家が焼ける程度で終わる。

タルコフスキーも、ベルイマンも、過剰なきまじめさ、非人間的なまでに過剰な理性が、世界を滅ぼす。希望は、原初的で粗暴で不真面目とも思えるが、暖かく 人情味ある庶民にある、と言っているかのようだ。このテーマはドストエフスキーに通ずるものがあると思う。

コスモスカオスの対応は、映像にも象徴的に現れている。第七の封印の白と黒、サクリファイスの冷たいカラーだが、モノクロトーンの前半と、より鮮烈な色彩 の後半と。

無理くり落ちをつけるとすると、
「<a href=">中 国が世界をメチャクチャにする</a>」という書籍が売れていますが、書籍に描かれている、中国人の、あさましいくらいの現世利益追 求の姿勢は、世界を混乱に陥れるかもしれませんが、世界が滅ぶことにはならないでしょう。反対に、米国のネオコンや、イスラム原理主義に代表される生硬な イデオロギーこそ、人類を破滅に導くものではないか、と思えるのです。

まぁ、この論法からすると、頭でっかちな私の元には、やがて死神が来ることになるのでしょうけど。。。。



07/03/2005


エリザベス ゴールデンエイジ

☆☆☆


 本当は、「黄金の日々」としたいんだけど、それだと、NHK大河ドラマの題名とだぶってしまうのでやめました。日本では、16日公開予定とのことですが、一足先に見てみました。

  あまりこの時代の知識がナイので、そこそこ楽しめましたが、前作と比べるといいところもあり、残念なところもあり。前作は、筋の走りが、「ゴッドファー ザー」第1作に似たところもあってか、第2作の行方に、「ゴッドファーザーPARTU」をなぞってみたりしていたのですが、「ゴッドファーザー」とは違っ た展開を見せた感じ(あたまえか)。「ゴッドファーザー」がPARTUで、より哀愁を帯び、詩情性豊な大河物語の色彩を深めたのに対して、共通点といえ ば、屋内シーンが多く、暗い室内から屋外を眺める描写が多い、というところくらい。

 アルマダの海戦シーンは映画史に残るほどの大迫力だ し、ケイト・ブランシェットは、エリザベス・テーラーの「クレオパトラ」に迫るかというくらい、今後のエリザベスのイメージに大きな影響を与える可能性が ある。衣装もカメラワークも凝っていて、当時の世界にトリップできる。

 でもでもやっぱり残念な点が多い。作品として減点というわけではなく、これがあったら、もっとすごい映画になったに違いない、という点が。

  筋が少し弱く感じるのは前作と同じだが、前作は、演出効果を優先したのだろうから、これでいいのかも、と納得できる面もあった。でも今回は、脇役がまった く光っていない感じ。前作大きな印象を残したウォルシンガムなど、「これが彼の役どころだから入れてみました」みたいなとってつけたような拷問場面だけと いう感じ。ちょっとしか出なかったライバルのメアリ・ド・ギースが、出番は少ないのに強烈な印象を残していたのと比べると、今回のメアリ・スチュアートの 扱いは何?小学校じゃないんだから、もっと緻密で深い陰謀にしてよ。そんな子供だましな。演出効果狙いで史実をまげるんなら、もっと劇的で、もっとドラマ チックにして欲しかった。そういうコンセプトの作品じゃなかったの?(決め付けすぎかも)。ローリー、お前もだ。美味しい役どころにし過ぎ。権謀なくして 生き残れなかったあの時代、ちょっと浮きすぎ。ロマンチックな裏側には、汚い現実があったのが、ロマン溢れる大航海時代だった筈。というか、史実のロー リーの方が面白いんでないの。

 幕切れにしても、前作はひたすら盛り上がって盛り上がって、その後の長く冷たく硬い治世を暗示させる決意 の圧倒的な余韻を残した幕切れだったが、今回の終わり方は何?救いが無いのではなく、そもそも救いなどとは無関係な非凡な空間を往くエリザベスだったの に、平凡な一瞬の幸福感が差し込む瞬間で終わる。ひょっとしてこの辺が黄金時代ということなのか?それってあんまりじゃないのかな。というわけで、前作よ り話は浅い。特にラストが前回より落ちた。がたっと来た感じ。フェリペ2世とスペイン宮廷もいい味出してるんだけど、今一歩。今回ブランシェットだけが 引っ張っていた感じ。前作ではラストの、「よく見て、バーリー卿。私は結婚したのよ。英国と」というセリフが強烈に記憶に刺さってしまったのだが、今回印 象的な場面は多かったものの、あれと比べられる程の場面には出会えなかった。

 とまぁ、結局否定的な指摘ばかりになってしまいましたが、前回も目に付いた、天井からの視点が増えるなど、筋よりも、見ごたえのある映像、従来の歴史映画とはちょっと違うな、というショットが多く、一見の価値ある作品だと思います。

 上演時間は1時間50分。あと1.5倍ほど、2時間半くらいの作品にした方が、深く厚みのある作品になったのではないかと思う。反面、重量級になりすぎて、興行的に難しくなるのかも知れないけど。 




「1612年」

☆☆☆


  ロシア動乱の時代を描いた「1612」を見ました。この時代のことは、殆ど知識がなく、予備知識の無いままに見たため、よくわからないところが多かったのですが、こちらの紹介に記載されている内容からすると、史実に題材をとっていても、史実そのままというわけではないようです。

 こちらのホームページなど見ますと、主人公は、ポーランドからモスクワを解放したミーニンとバジャルスキーとなっていますが、本編の主人公にそれらしい人はでてきません。前掲のページの記載によると、主人公はボリス・ゴドノフの宮廷に仕えていた召使の子とありますが、この解説を読むまであれが宮廷とは思っていませんでした。このあたりについてはこちらのサイトを参照してみますと、ボリス・ゴドノフはモスクワで病死したとされ、その子供の代になってから、一家は偽ドミートリー派に襲撃されたことになっています。

  一方映画では、ポーランド(コサック)のヘトマン(統領)が、地方都市のような規模の町としか思えない町を襲撃し、娘のゼニア(ゴドノフの娘?)を略奪 し、彼女にあこがれていた(と思える)主人公の少年は、ゼニアが略奪するところを目撃しますが、彼の家族兄弟もその場で殺されます。その後数年間、スペイ ン人の荒くれ騎士(傭兵?)の従者(奴隷)となって諸国をさすらっていたところ、たまたま主人が乗り合わせた船にゼニア姫が乗っていたことから、彼女を救 うべく立ち上がる、というものです。
  立ち上がるといっても、実際は、野盗に襲撃されて殺された主人に成りすまして、ポーランド人ヘトマンに大 砲を売りつけて取り入る、という方法です。しかし、スペイン人でないことがばれ、軟禁されているゼニア姫を救い出して近隣の町へ逃げ込んだことから、ポー ランド(コサック)部隊が、その町を襲撃し、結果的に町衆を率いて防衛し、最後の決戦でヘトマン一派を打ち破る、というものです。

 町の 包囲攻撃や、一介の平民である主人公がいつの間にか、町の防衛のために英雄的な働きをするところなど、「キングダムオブヘブン」を彷彿とさせるところがあ ります。とくに、町の包囲攻撃場面は、「始皇帝暗殺」の邯鄲攻城や、「キングダムオブヘブン」のエルサレム攻城などと並ぶ、歴史映画史上に残る大迫力だと 思います。こちらに予告編の動画があり、もっとも迫力のある場面を見ることができます。

 更に、試してはいないので、はっきりとはわかりませんが、こちらのサイトでは、映画そのものがダウンドードできるようです。またこちらの映画評も参考になります)

 まぁ、背景を調べてからもう一度最初からよく見れば、地名や場所、人名がわかり、もっとまともな情報を掲載できるかも知れませんが、実際のところ、主人公は、こちらのサイトで も、Andrey、名を騙ったスペイン騎士はAlvaro Borjaとなっていますが、映画の中で普通に使われていたのは、Cavalier(カヴァリエール)(後日調査。Cavalierは、 cavalry(騎兵)に連なる騎士の古語でした)。よくわからないまま見終わった今でさえ、誰が史実の誰に相当するのか、やはりまだわからないので、結 局、スウェーデンやドイツ、ポーランドなど、外国勢力に侵略され、混乱していた当時のロシアを象徴的に描いた作品、ということでいいのかも知れません。ど なたか、この作品についての正確な情報がある方、お教えいただけますと助かります。 

 そういえば、ローマ法王が何度か登場していて、コ サックヘトマン部隊には、スペイン傭兵としか思えない装備の兵士達が軍隊規模で従軍していた。あれはカトリックの包囲網ということだったのだろうか。白昼 夢のように登場するユニコーンもよくわからなかった。まるで、「ブレードランナ」の主人公の夢に登場するような感じで、白馬のユニコーンが何度も登場して いたけど、あれはいったいなんだったのだろうか。

 とまぁ、ほめもけなしもしない焦点のあいまいな映画紹介となってしまいましたが、当時の風俗や町の再現はよくできていると思いますし、大砲による町の砲撃シーンは、歴史映画史上に残るできばえだと思います。