第二景


 前景の翌日。時間は昼過ぎ。
 下手奥より、中條と島田の2人が登場。中條は、ヤクザの口調や仕草について島田に稽古をつけている。
 2人、小料理屋の前まで来たのに気付いて立ち止まる。

中條「そや、昨夜あれからどないなったんや?多加子の奴に追い出されて孝子さんの用事が何やったんか聞けへんかったけど」
島田「それがな、大変なことになったんや。孝子はんに息子がおるのは知っとるやろ?(中條、頷く)そのヒロ君が帰って来たんや。東京では就職できへんかったからって店を継ぐ言うてなぁ」
中條「それやったらええがな」
島田「それが良くないねん。ヒロ君が言うにはな、好きな娘が大阪におって、店を継いだらその娘と結婚する。せやけどな、相手の娘はんに自分の母親がオカマです、なんて言えへんから、孝子はんには何処か他所(よそ)で暮らしてくれ。そない言うたんや」
中條「(聞いてるうちに頭に来て)な、何やてぇ!孝子さんに出て行け言うたんか?その息子。よし、俺がそのヒロって奴にガツンと言うたるわ」

 中條、店の戸を開ける。中には、難しい顔をした青野が、腕組みをして椅子に腰掛けている。2人、声をかけ辛く、入り口で立ち止まる。

青野「(2人の視線に気付き、少し表情を和らげる)何や、あんたらかいな。店はまだやで」
中條「それは解ってるがな。それより聞いたで、息子の事。何やそいつ、孝子さんに出て行け言うたらしいな」
青野「(弱った表情で)そうやねん。ヒロの奴、言いたい事言うたら自分の部屋に閉じこもって、今朝はわしの知らん間に出て行きよった。孝子はあれからずっと泣き通しでな、まるでダダ漏れのポットみたいで見てられんのや」

 島田と中條、その辺の椅子に腰掛ける。そこへ、ポットを大事そうに抱えた孝子が店の奥から出て来る。孝子の気がふれたのかと思い、ギョッとなる3人。

孝子「(意外にしっかりした表情、口調で)このポット、ちょっと具合が悪いから修理に出して来るわ。いつもの電器屋さんは定休日やから、ちょっと隣町まで行って来るわ」

 安心する3人を後に店を出た孝子、下手から出てきた多加子とすれ違う。多加子もギョッとして店の中に駆け込むが、3人に訳を聞いて安心する。

多加子「(ややあって)そうや、大将。あたし、前から聞こう思てたんやけど、大将と孝子さんのなれそめってどんなんやったの?(島田と中條も、多加子の言葉を聞いて、青野の方に身を乗り出す)」

 青野、照れながらも語り出す(この部分、青野さんのアドリブに任せます。毎回違ったなれそめにして欲しいので)。島田たちも、改めて2人の愛情の深さに感じ入る。
 3人、「ええ話聞かせてもろたわ」と帰って行く。青野も、3人と話をした事により気持ちが和み、店の仕込みでもしようかと腰を上げる。
 店の奥に入ろうとする所で、ヒロと見知らぬ若い女性(ヒロの恋人、梶本愛)が立っているのを見て、再び険しい表情になる。

青野「何やヒロ、帰っとったんか。朝早ようから行き先も言わんと何処行っとったんや。(愛に気付き)ヒロ、その娘はん、誰や?」
ヒロ「あ、お父ちゃん……この娘(こ)が、俺の結婚相手や」

 愛、驚いた表情でヒロを見る。
 青野は、それ以上何も聞きたくないとばかりに、「今晩の仕入れがあるから」と出て行ってしまう。
 取り残されたヒロは、気まずそうに愛の方を見る。

「結婚って、どういう事なの?あたし聞いてないわよ」
ヒロ「いや、俺も今初めて言うた。すまんかったな、驚かして。先月、愛ちゃんが大阪に帰るから、これで終わりにしようて言うた時、俺もそれでええかな、そう思た。けど、3日も経たんうちに、愛ちゃんのことで頭が一杯になってもうて、大阪に帰って店継いで、愛ちゃんにプロポーズしようと決心してたんや。お父ちゃんは、お前に結婚は早いって反対しとるけど、俺たちはもう大人なんやから、親の許しがなくても結婚できる。なあ、俺と一緒になってくれ。こっちで仕事見つけて、アパートも借りる。一所懸命働いて、愛ちゃんには苦労はかけへん。(両手で愛の肩を抱き)なあ、ええやろ?」
「(困惑した表情で)あたし、ヒロ君がそんな事言うとは思わなかった。ヒロ君って、女の子と付き合うのは遊びだと考えるような人だと思ってた。だから後くされなく付き合えると思ってたのに(言葉とは裏腹に苦しそうな表情)……はっきり言うわ、ヒロ君。あたし、ヒロ君のことは好きだけど、結婚は嫌いなの!」

 愛、ヒロの手を押しのけ、店を出て行く。呆然としているヒロ、気が抜けたように椅子に座り、頭を抱える。

ヒロ「(八つ当り気味に)それもこれも、お母ちゃんのせいや」

 それを聞いていた青野、店の奥から飛び出し、ヒロの胸倉を掴み「そらどういう意味や、言うてみい!」と詰め寄る。ヒロも青野を睨み返し、険悪な雰囲気。
 そこに孝子が帰って来る。

孝子「すぐそこで、電器屋のご主人に会ったから、ポット渡して修理頼んどいたわ。(2人の様子を見て)あんた、一体どないしたの?」
青野「孝子、もうこいつ(ヒロ)は息子やないぞ。先刻(さっき)こいつ、恋人に結婚断られたのお前のせいにしたんや」
ヒロ「だってそうやないか!何処の世界にオカマの母親を恋人に平気で紹介する息子がおるんや。そんなん出来る訳ないやろ!」
青野「オカマの何処が悪いんや。お前にとやかく言われる筋合いはない!」
ヒロ「そりゃお父ちゃんはええかも知れへんよ、好きな人と一緒になったんやから。でも俺は、小さい頃から『オカマの息子』言われて、好きな女の子にも気味悪がられたんや。東京に行ってから、やっと女の子と普通に付き合えるようになって、何人か、結婚したいなと思う相手もおった。でも、そのたんびにお母ちゃんの事を相手に紹介する事を考えたら、結局プロポーズする勇気が無くなってもうた。でももうそんなん嫌なんや!せやから、お母ちゃんには家を出て行って欲しいんや!」

 青野、殴りたいのをぐっと押さえる。

孝子「ヒロ君、あんたの気持ちは解るわ。せやけど、相手に嘘をついてごまかしても、幸せにはなれんのと違う?それよりも、正直に胸の内を打ち明けて、解ってもらう事の方が大事やない?その娘さんが、ほんまにあんたの事が好きなら、私が男かどうかなんて気にせん筈よ」
ヒロ「いっつもお母ちゃんはきれい言ばかりや。世の中なんてな、お母ちゃんの思てるようなもんと違うんや!お父ちゃんに愛されて、なんの苦労もしてへんお母ちゃんなんかに、俺の気持ちなんか解らへんわ!」

 青野、ついにヒロを殴る。

青野「阿呆!お前こそ何も解ってへんやないか。孝子はな、わしと一緒になって、お前を引き取ってからどんなに苦労を……」

 孝子、「もうええわよ」 と青野の言葉をさえぎる。

孝子「確かに、オカマの母親なんて、子供にとっては迷惑なだけかも知れへんわね。でもね、女やろうと、男やろうと、母親になると決めた日から、子供の事しか見えんようになるの。(次第に涙声になり)でも、私が居る事で、あんたが不幸になる言うんやったら、解ったわ。私はここを出て行きます。それでええんでしょ?」
青野「お前、何阿呆な事を……」
孝子「ええのよ、これで。あんたも、店の方一人で大変やと思うけど、なんとかやってね」
 孝子、入り口の方へ歩いて行く。そして、2人の方を振り返り、「あんた、ヒロ君、さいなら」とつぶやくと、駆け出して行く。泣きながら。
青野「何でこうなるんや……」

 青野、頭を抱えて泣き出す。
(暗転)


第三景に進む

第一景に戻る