ドラヴィダ武術の精華・Silambam

 

Silambamの語源にはふたつの説がある。ひとつは、Silamは丘の上を、Bamは竹の棒を意味し、合わせて『丘の上の竹』だという説。もうひとつは、棒を振り回している時に鳴る音をタミル語で擬音化したという説。私はどちらかと云うと後者の肩を持ちたいが、どちらにしても、Silambamとは、タミルナードゥ州で広く実践されている、棒術の総称である。一般には弾力のあるCane(籐の一種?)を使う。

その歴史はおそらく、ドラヴィダ文化の揺籃期、サンガム時代(西暦1世紀をはさんで前後数百年)にまで遡ると思われる。イギリス植民地時代にはカラリパヤットと同様に激しく弾圧され、辺境の山岳地帯にその身を隠した。独立後は伝統文化の見直しと共に、特に学校教育と歩調を合わせて、普及が活発化された。

本来はカラリパヤットと同じ様に様々な武器技や体術と合わせた総合武術だったらしいが、現代では主に棒術のみの形として伝承されている。

また、棒と云うどこででも手に入り、野獣を追い払ったり、蛇をよけたり、強盗から身を守ったりと、日常的な利便性もあって、特に農・山村部では非常に普及してきた。現在でもちょっと田舎に行って聞いてみると、昔はならしたもんだ、と云う腕自慢のおじいが2,3人はすぐ出てくる。普及の形態としては沖縄の村棒術に近いかもしれない。

また、忘れてはならない特徴に、ムスリムの存在感がある。今回紹介したマスターのほとんどがムスリムであり、シランバムで使われる専門用語にもアラビア語起源の単語が多い。この辺の歴史を紐解けば、ヒンドゥが主役の北派カラリパヤットとの違いが、より鮮明に把握できるだろう。

シランバムは大きく三つに分けることができる。

 

1.Sports Silambam

現代シランバムの普及は小中学校など子供達の体育、あるいは地域少年スポーツと云う側面が強い。そんな中、近年急速に発展しているのがこの分野で、円形のコートの中で二人が対峙して、棒を構えて剣道のように試合をする。英語名はStick Fencingでインドを中心に世界中に広まりつつあり、オリンピックの正式採用を目指しているらしい。ルールは子供向けにポイント制で優劣を競い、相手を強打してダメージを与えるとペナルティが与えられるなど、実戦的な要素は極端にそぎ落とされている。だが、マスタークラスの対戦は非常に高度な駆け引きと技術が見られ、学ぶべき事が多い。

2.Show Silambam

主に学校行事や地域のイベント・祭りなどで行われるデモンストレーション。最近では新体操のリボンやリングのような技も取り入れられ、華やかな装いを見せる。特に夜行われる一連のファイヤー・シランバムはほとんどサーカスのようなエンターテイメントで、民族太鼓のリズムに乗って繰り広げられる技の数々は、演技者と観客が一体となったトランスの世界にいざなってくれる。

3.War Silambam

これが本来の武術的棒術。ひとりで行う基本操作から始まって、二人で向き合う組棒の型から、棒を使った関節技、投げ技など、多様な広がりを見せる。

タミルも最南部に行くと、シランバムのマスターが同時にカラリパヤット的なマルマン知識を持っていたり、あるいはウルミーなどの武器技も持っていたりと、シランバムと南派カラリの区別があいまいになってくる。

 

今回の調査行でたびたび話題になったのが、果たして、シランバムと南派カラリパヤット、どちらが元か、と云うものだが、私にもその答えはまだ出ていない。

ケララのマラヤーラム語が西暦800年頃タミル語から分かれた事、両者の共通のルーツがサンガム時代にまで遡れる事を考えると、おそらく、同じサンガム時代に南派カラリパヤットとシランバムの共通の祖となる武術が体系付けられ、その後、タミルとケララの分立によって、それぞれが独自の進化発展を始めた、と見るのが妥当ではないだろうか。

ひとたび分かれても、その後両者は旧トラヴァンコール藩王国周辺で交じり合い、影響を与え合っている。片方で失伝された型や技が片方には残され、それをまた取り入れることによって伝統の再興がなされたりと、一概にどちらが親でどちらが子供かなどとは言い切れない。

CheraCholaの争い以来、現代にいたってもケララ人とタミル人のライバル意識は強烈で、両者はお互いに自分がルーツである事を譲らないのだが、私としては、どっちでもええやん、とこの争いからは身を引いている。

道場ガイドへ

dab_red

Home © 20062016 Sangam Institute of Indian Martial Arts. All rights reserved. Next