第5回
王、決断す

 サイ=コーデルフィアは戦士である。戦歴も長い。歴戦の勇士と言っても良い。だが、今回作戦に参加するにあたって、一つだけ問題があった。
 実は…マシーンの操縦はあまりした事が無い。取り分け水中戦など皆無と言って良かった。

「あー…動かし辛い身体だな。」
 格納庫の扉を潜り、流星号に小走りで近づきながら、愚痴るサイ。
「まるで自分の身体では無いような物言いだな。」
 淡々と歩きつつ、劉輝国の猫士。
「…まあ、な。」

 …サイは気ままな戦士だった。誰かの助けの声あれば馳せ参じ、平和となれば去って行く。あくまでここに居る理由は悲しみがあるから。ただそれだけであって、それ以上でもそれ以下でもない。この世界での身は仮初のもの。本来彼が居るべき場所もここではない。平和が戻ればまた元の世界へと帰って行く。そんな奴だった。

「うーむ…そんな調子でアイドレスの操縦が出来るのか?」
「まあ、成せば成るってね。」
「…私はこんな所で死ぬのは御免だ。」
「ああ、オレもだよ。」

 流星号に辿り着きコックピットに滑り込もうとする猫士。
 …だが、そこには先客が居た。

「何をしていらっしゃるんですか? …フィーブル藩王閣下。」

 飛び乗ろうとして、そのまま縁を掴んで運動の向きを変え着地を決める劉輝国の猫士。

「最終チェックを。この機体の事はこの国で一番僕が良く知っています。」
「すみませんが、もう出撃です。終わりにして下さい。」

 サイ、久しぶり敬語を使ったような気がして、ちょっと苦笑。

「いえ、もう終わっています。そして…降りる事はできません。」

「へ?」「…それはどう言う?」

 不可解な展開に混乱する一人と一匹。

「この機体の設定を複座仕様に戻しました。もう単座にする時間はありません。」

「え?え?」  更に混乱するサイ。
「…な、なんと!? 御自分のした事が分かってらっしゃるのですか?」
「あ、ああ、そうだな。とりあえずもう一人パイロットが必要になっちまったな…」

 やはり子供は子供かと思う猫士。

「サイ、違う。閣下は御自分で出陣なされる気だ。」
「ん?そうか…え?あ!? ………それはできねぇ、降りてくれ。オレが一人で動かす。子供でしかも王様の奴を戦場に出す訳にはいかねぇ。」

 俯いていた顔を上げるフィーブル王。…頬には涙の後が光っていた。

「…僕は…僕は何の役にも立っていません…!! さっきも唯用意された文を読むだけ…誰でも出来ます…それに、それすらも完璧にこなす事が出来なかったんです…パーカーが居ればこの国は成り立つんです!僕が居なくなっても大丈夫なんですよ! …だから…でも…これなら少しは役に立てるはずです!! 王としての義務を…民を守るという義務を果たせるんです!! だから…」

「ぐ…えーと…その…どうする?」

 結局涙には弱いサイ。それにちょっとその…心が揺らいだ。

「わたしはあくまで劉輝国の義勇猫だ。決定権が無い。…更に言うなら、もう時間も無い。」
「…じゃあ、出撃中止?」

 また泣きそうなフィーブル王…
「…一人ででも出撃します…こうなった責任は僕が取るべきなんです…」
 そう呟く様に言って、決死の表情でハッチを閉めようと手を伸ばす。

「わ、分かった! OK、三人で出撃! 行くぞ、猫!」
「だから…名前で呼べと… ああ、何でこんな事に…?」

 飛び乗る一人と一匹。即座に出撃体制に以降する流星号。そして、リンクゲートへと近づいて行く…

                   −出撃−


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